緑深く、艶やかで、日本人の感性にやさしく響く苔。この苔という生き物は、空気中の湿気や雨露などの水分を吸収し、水分中に含まれる栄養分を分解して育っています。生育には長い年月が必要で、適応条件もあることから、どこでも簡単に育てられるというわけではありません。
そんななか、苔の人工栽培に成功したのが、新保隆。造園会社に勤める傍ら、苔の魅力にとりつかれた新保は、十数年にも及ぶ試行錯誤を繰り返した結果、人工栽培の苔を生み出すに至ります。その数は9種類。色や形、質感はさまざまで、日陰を好むものもあれば、意外にも日なたを好む品種もあります。そこには、じめじめとした日陰に育つもの、という従来の苔のイメージはないでしょう。「人工栽培した苔と聞くと、自然のそれに比べて表情や性質が劣っていると思われるかもしれません。しかし、それは間違いです。天然の苔に比べて色、艶、ボリューム感は上回り、さらに環境適応能力が高いという大きな長所を持っています。なぜかといえば、手つかずの自然が広がる山の中ではなく、人々が暮らす場所に近い環境で育てているからです」と新保隆は言います。私たちは、新しい「自然」を育てているのです。
上質なビロードのように地面を覆い、「にほんの美」の世界へと連れていってくれる苔の庭。そこには懐かしさや趣が満ち、いるだけで心くつろげる癒しの雰囲気があります。
「苔は自然美を構成する大切な要素」。新保隆は、そんな思いから人工栽培の研究を始めました。たとえば、山に行けば木の根元に苔が生え、その苔がほかの木々や草花とをつなぎ、美しい風景をつくり出しています。庭に自然を再現しようとすれば、そこに苔は欠かせないのです。
設計にあたっては、まず土地の環境を調べ、適応する種類を選びながら、苔をどう組み合わせるかを考えます。越後苔匠の苔は、色も違えば、形も質感も違います。一つ一つを「彩り」と捉え、より自然に、より美しく見える最上の組み合わせを考えるのが私たちの庭づくりです。
素早く施工できるのも大きな特長です。一般に数年から十数年かかると言われる苔の庭も、越後苔匠の苔を使えば、最短1日間で可能。苔を知り尽くし た匠の技が、ここにも生きているのです。
そして同時に、これまで庭の脇役にすぎなかった苔を主役へと押し上げました。
四季を通じて緑を楽しめる苔の庭では、樹木は苔の生育のために植えられ、石組は苔の美しさを引き出すために置かれます。そんな苔の庭は現在、屋上へ、地域の緑化へとその範囲を広げつつあります。
苔には不思議な魅力があります。近づいて眺めると、小さな緑一色の中にさまざまな質感や形がひしめきあい、まるで自然の小宇宙です。そんな苔をもっと身近に置きたい、そばで眺めて楽しみたいという気持ちに応えたのが、苔玉や苔盆栽です。
苔玉とは植物の根を部分を球状にして用土で包み、苔を張り付けて糸で固定したもの。一方の苔盆栽は鉢に苔などを植えたもので、いずれも和の趣を伝える室内観賞用のグリーンとして根強い人気があります。越後苔匠では、当社で開発し生産している人工栽培の苔を使って苔玉や苔盆栽を創作、販売しています。それは、見た目だけを考えて組み合わせたものたちとはちょっと違います。苔を知り尽くした匠が手がける苔玉や苔盆栽は、苔の生育に無理のないデザインで仕上げているため、長く楽しめるインテリアとして部屋に置いていただくことができるのです。
一方、人工栽培した苔は、マットの状態で造園会社をはじめとする業者だけでなく、小売店を通じて一般のユーザーにも提供されています。私たちは、生産から創作、販売までを一貫して行うことで、最後まで責任を持って苔に向き合っています。